日本海の海底で自然のままズワイガニを観察したいと念願し、その機会のくるのを待ち続けた。そして昭和六十三年にその念願は、深海用の水中ビデオカメラを使うことでかなえられた。実験海域は京都府丹後町の同人から二十一キロ沖合で、はじめて自然状態のズワイガニを観察した。次の観察の機会は、平成元年で科学技術庁所管の海洋技術センター「潜水艇しんかい2000」を使って、直接に海底でズワイガニを見ることであった。潜水する時期か、「処女ガニ」が交尾するだろうと推測していた八月のお盆直後で、確率は低いが、ひょっとしたら自然の環境での交尾を観察できるのではと期待を持った。潜水作業がはじまって数時間後に、潜水艇に乗り込んだ京都府海洋センターのY技師が興奮気味に水深二百七十メートルの海底から母船に報告してきた。「力コブリンクをしている力二を見つけました」。これが、世界ではじめての深海における「交尾」行動の観察である。